今回の回答者は日本の人気漫画を英語に翻訳しているアメリカの出版社。著作権問題、日本語から英語への翻訳の難しさ、今後の翻訳漫画市場の動向などについて語るAMA(なんか質問ある?)。
(ダラス&ベン)
Kodansha Comicsだよ。漫画の「進撃の巨人」や「セーラームーン」の英語版の出版社だ。AMA(何でも聞いて)!

Kodansha Comicsはアメリカを拠点としてKodansha USAの漫画発行を行っている、講談社のアメリカ子会社だ。「進撃の巨人」、「セーラームーン」、「ヴィンランド・サガ」のような、講談社が持つ素晴らしい漫画を翻訳出版してる。

ダラス・ミダー:Kodansha Comicsチームの担当であるRandom Houseの出版業務のディレクター。「グラフィックノベル出版」セミナーを行う、ニューヨーク大学の助教授でもある。20年近くに渡る出版業界での経験から、面白い話をたくさん持ってるよ!
 
ベン・アップルゲート:Kodansha Comicsの編集者。過去10年間、漫画を翻訳編集し、京都と東京に住み、日本旅行の案内役を務め、マジックザギャザリングにハマりすぎている。 Kodansha Comicsに来る前はDMP's Platinumの編集者だった。Kickstarterを通じてライセンスを受けた初翻訳漫画は手塚治虫の「ばるぼら」。

Kodansha Comicsで最近翻訳したシリーズは以下の通り。

・Attack on Titan(進撃の巨人)とそのスピンオフ
・Battle Angel Alita: Last Order(銃夢 Last order)
・Cage of Eden(エデンの檻)
・Fairy Tail(フェアリーテイル)
・Genshiken: Second Season(げんしけん二代目)
・No.6
・Sankarea(さんかれあ)
・Say I Love You(好きっていいなよ。)
・Vinland Saga(ヴィンランド・サガ)

なんでも聞いて! 


Q. 諫山 創(「進撃の巨人」の作者)と話したことある?もしそうなら彼は自分が世界でどれぐらい人気があるか知ってた?

A. (ベン) 諫山センセイと直接話したことはないけど、彼は海外の「進撃の巨人」人気に気づいているよ。海外での人気はあのシリーズとスピンオフ漫画によるものだけど、今後彼らがセンセイを手放すかどうかはわからないな。;)

Q. 漫画の中に最も頻出する、正しく英語に変換するのが難しいと思うものはなに?文化の違い?フレーズ?


A. (ベン) 一番良くあるローカライゼーションの問題は2つのカテゴリーに分けられる。

1. 単純に英語には同じ意味の言葉が存在しない些細で形式的なフレーズ。最もよくある例が「いただきます」。これは日本では食事の開始時に言われるフレーズなんだ。でも実際良い翻訳が存在しない。もし君たちがアニメの吹替えを見ていたら、食事前にキャラクター全員が突然「Let's eat!」とか「Thanks for the food!」とか言うのを見かけるだろう。これは翻訳者が「いただきます」という言葉を訳すためにベストを尽くした結果だ。 「いただきます」の翻訳としてよく見かける最悪のやつは、「Grace!」だと思う。いったいどこのどいつが食事の前に「GRACE!」なんて言うんだ!?

2. その対極にあるのが特別な意味を持つ名前だ。しばしば漫画のキャラクターの名前に含まれる漢字は、彼らのパーソナリティや物語上の役割と関連性のある意味を持っている。それを活かすには名前をそのまま英語に翻訳する以外に方法が無いが、それは通常最良の選択じゃない。(セーラー「Bunny」とか?)

これらの多くの場合、1つの訳注は2つの悪よりマシだ。

 └・個人的に「いただきます」は「Bon appetit」と訳せるんじゃないかと思うけど、間違ってるかな?
(僕は日本語がわからないけど文脈上適切なんじゃないかと思って)

  └ ・「いただきます」は食事をする人たちそれぞれが食べる前にいうフレーズなんだ。「受け取る」とか「喜んで受け入れる」とか(他の意味も)を意味する動詞なんだよ。食事の場面で、食べ物への感謝を表現するために使われているんだ。

(訳注:Bon appetitは食前に、食事を友にする相手に対して言う「美味しく召し上がれ」という意味のフランス語)

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Q. 翻訳版「進撃の巨人」をちょうどいいペースで出版していてくれてありがとう。あなたたちが11巻を発売した後、講談社が日本で12巻を発売するのはいつ?

A. (ベン)「進撃の巨人」を応援してくれてありがとう!(出版ペースは君にとってはちょうどいいかもしれないけど、僕にとっては正気じゃないペースだよ。)翻訳版の11巻は12月に発売される。だから日本版の発売の4ヶ月後だ。これは業界の常識からするとかなり信じられないことだよ。
本を印刷して、倉庫に送って、アメリカ中の書店に輸送するためには2ヶ月が必要だ。それに対し、日本の出版社は印刷から店に届けるまでを数週間でできる。つまりオリジナルの日本版のデータが僕らに届くのは日本版発売の直前だ。翻訳やレタリング、編集の時間は全然足りない。そういうわけで、不運にも日本版と翻訳版の同時発売はおそらく手の届かないものなんだ。



Q. なにか新しくて興味深い情報ある?それと、あなたがた慈悲深い出版社は僕のような苦学生のために「無料サンプル」(むしろシリーズ全巻)を提供してくれますか?

A. (ダラス) ええええええと……僕は既にアナウンスされた以上のことを話せない。漫画のライセンス契約のプロセスはそういうことを許してないから。一度ライセンスを得ると、その後僕らは発表する日にちや方法などの承認を得なきゃいけない。
でも僕らが先月アナウンスした漫画の全てを出版することをすごく楽しみにしてるよ。
  • 「進撃の巨人 悔いなき選択」
  • 「進撃の巨人 Before the fall」
  • 「進撃!巨人中学校」
  • 「進撃の巨人 INSIDE 抗」
  • 「進撃の巨人 OUTSIDE 攻」
  • 「七つの大罪 The Seven Deadly Sins」
  • 「UQ HOLDER!」
どれも無料じゃないけど……。僕を言い表す言葉はたくさんあるけど、明らかに慈悲深くはない。僕はむしろ手に負えない独裁者タイプだよ。
 
Q. スキャンレーションや海賊版は業界や君の会社にどれぐらいのダメージを与えてる?

スキャンレーション (Scanlation) とは、日本国外の漫画ファンが、漫画のオリジナル版、もしくは海賊版を入手し、台詞を彼らの母語に書き換えたうえ、配布する活動である。オリジナル漫画をスキャン (Scan) し、セリフを翻訳 (Translate) することから、Scanlationという名がついている。

翻訳者には日本語を学習した英語話者のほか、英語に堪能な日本人も参加していることがあるが、無償で活動する素人集団であるため作業の質は玉石混交で明らかな誤訳もある。 

Wikipediaより 

A. (ベン) どれだけのセールスが海賊版によって失われたのか、確実なことは言えない。明らかに、スキャンレーションを読んだ人たちの100%が、スキャンレーションが無かった場合に本を買ってくれたわけではないだろう。だけど、もちろん0でないことも確かだ。他の出版社は、シリーズがスキャンレートされ始めた時点で売上がちょうど下がるということに気づいた。はるか昔、スキャンレーションは人々や出版社に新しいシリーズを広めるために有益に機能していた。しかし今では、正式な翻訳版の販売にほとんど結びつかず、スキャンレーションを正当化する理由は消えてなくなった。
僕はシリーズが正式に発売されていようとなかろうと、スキャンレーションは信じがたいほど有害だと思っている。明らかに売上を妨げる(すでに言及したように)だけでなく、人々に漫画は無料だと教え込み、その結果多くの読者が「スキャンレーションがこんなに簡単に手に入るんだから、作者や出版社はそれでいいに違いない」と信じ込んでしまう。
だからコンベンションで僕に会うたくさんの人々が、「○○シリーズの次の章はいつオンラインにアップされるの?」と尋ねてくるわけ。ああいうのは士気を下げるよ。

 └・完全に同意する。もし本当にコミックが欲しいんなら買えばいいだろう。Amazon.jpがあるぜ、みんな。
もしスキャンレーションを読むんなら、少なくとも日本のオリジナル版を買えよ。漫画家の仕事は大変なんだ。敬意を払え。

 └・個人的にスキャンレーションは地位を獲得したと信じてる。アメリカでは決してヒットしないだろうたくさんのシリーズがある。僕がハマっているそのジャンルが、ニッチでファンが少ないと見なされているせいで起こる悲劇だ。僕は作者を支援するために日本語版を購入してる。でも現実的にそのシリーズはアメリカでは永遠に出版されないだろうし、メインストリームには乗れないだろう。
それに質の問題もある。一部の会社は、質の低い翻訳や厳しい検閲、平均以下の印刷用紙の使用など、酷い仕事ぶりを見せている。僕は出来るだけ台無しにされていないシリーズを望んでいる。スキャンレーションはそれを提供してくれる。公式版は水で薄められたもののように感じるよ。

 └・SNKのアニメを見終わって、まだ物足りないと思ったときに、スキャンレーションサイトに行ってコミックを読んだよ。でも今年のニューヨーク・コミック・コンで公式にリリースされていた本全巻を購入したんだ。そのシリーズがすごく好きだったから。たぶんアニメを見ただけでは買わなかっただろう。だからスキャンレーションサイトは、コミックを買う気のなかった一部の人間には上手く作用しているよ。
 
Q. 古い漫画から新しい漫画までどれでも翻訳していいとしたらどれを選ぶ?

A. (ベン) もし必要な専門的知識を持っていたらの話だけど、井原西鶴の作品を自分で翻訳したら楽しいだろうなと思うよ。

(ダラス)
僕の選抜リストには3つあった。ひとつは「宇宙兄弟」。それは今クランチロールにアップされている!他のふたつは浦沢直樹の「BILLY BAT」と手塚治虫の「七色いんこ」。青年漫画が好きなんだ。

Crunchyroll(クランチロール)は、日本アニメドラマ漫画を提供する動画共有サイト
当初はアニメ投稿サイトであり、主として日本アニメのファンサブが投稿されていた。これらは著作権を侵害する行為であるが、サイトは急成長を続けていった。こうした中で、日本法人を設立しアニメ会社と提携について交渉。自サイトの違法動画を削除、動画投稿サイトにおける違法投稿の検出ソフトの提供などを行い、ついにテレビ東京との契約(日本放映の1時間後に動画配信。キー局でこのスタイルは世界初)にこぎ着けた。
Wikipediaより 



Q. Kodansha USAは新しいシリーズを発行することに力を入れてる?それともアメリカで正式に翻訳版が発行されたことのある作品の再販が優先?人気があったのに最近権利が切れてしまった2000年代初期の作品がたくさんあるよね。Dark Horseみたいな他の出版社がそれらを再販してるけど。

A. (ダラス) 新しいシリーズを世に送り出すことにより集中してると言わざるを得ないだろう。でも僕らはいくつかのシリーズを再発行したよ。来年はCLAMPの「ツバサ」と「xxxHOLiC」をオムニバス形式で発売する。「ラブひな」と「東京ミュウミュウ」も同じく再翻訳して再発行するよ。でも僕らのリストの多くは明確に新シリーズだ。それにDark Horseがライセンス切れシリーズを拾い上げることは何も悪くない。僕らは彼らが大好きさ!

Q. 最近のアメリカンコミックで読んでるものある?もしそうなら何?
 
A. (ダラス) 僕はあらゆるタイプのコミックを読んでる。だから答えは「YES」。たくさん読んでるけど、現在のトップ3はたぶん「Saga」、「Think Tank」、「Locke & Key」。

(ベン) 
チームの他のメンバーは僕よりずっとアメコミを読んでるね。僕は今「Saga」が大好きで、Oni Pressが素晴らしい仕事をしたカラー版「スコット・ピルグリムvsザ・ワールド」も読んでるよ。それから「Rachel Rising」も読み始めるつもりだ。「Echo」が大好きだったから。 



Q. 翻訳するシリーズはどうやって選んでいるの?第一に日本での売上や人気に基づいているってことは明らかに分かるけど、「No.6」の翻訳版が出版されるというアナウンスを今年はじめに聞いたときすごく驚いたの。私は「No.6」の大ファン(これまで出版された本を全て買ったわ!)よ。でもあのシリーズがBLのボーダーラインにある内容だってことを考慮すると、「No.6」が海外で出版されることは驚きだったわ。どうやって決まったの?

A. (ベン) アメリカで成功する可能性を持っていると思われる、優れたストーリーやキャラクターを持つ漫画を探しているよ。ジャンルに関わりなくね。だからBLっぽいことは僕らにとって問題じゃなかった。「No.6」は本当に興味深く、ほろ苦いストーリーだ。あの作品はアニメと小説によってとても熱心なファンベースを築いている。だから以前僕らが手がけたものとは異なっていたけど、あの作品のライセンスをとることに確信を持っていた。にもかかわらず、どれだけ売上が伸び続けているかに驚かされてるけど!



Q. 「ちはやふる」プリーズ。

A. (ダラス) メモした。でもたくさんの読者が獲得できるとは想像しがたいな。すごく長いシリーズはアメリカでは売れにくいだろう。とは言え、絶対無理とは決して言わないよ!

Q. 福本伸行作品のアメリカでのリリースを実現させるものって何かな?個人的に彼の作品なら何でもかなりのお金を費やすだろう。でも僕や他のファンたちが彼のシリーズをアメリカに持ってくるために財政的に実行可能なことって何なんだろうと思って。

A. (ダラス) 福本作品は素晴らしい。だけどアメリカにおいてはかなり限定されたアピール力しかないんだ。彼の作品をアメリカで成功させる方法が僕には分からない。もし何か思いついたら、絶対その方法を検討するだろうね。 

Q. マガジンSPECIALの「となりの山田さん」の英語版が発売されるチャンスはある?

A. (ベン) 講談社のほとんど全ての漫画にそのチャンスがあるよ。ただし、それ以上のことは言えないけど。



Q. アメリカの翻訳漫画市場についてどう思う?拡大しているように感じる?業界は今後どのように変わると思う?

A. (ベン) これについてはダラスが権威を持って話すことができるだろう。でも僕らは、最悪の時期は明らかに僕らの背後にあると思ってる。市場全体は確実にリバウンドしはじめている。それにもちろん、僕らは「進撃の巨人」をもって今までで最高の売上を記録した。
業界の変化がどれぐらいとかどのぐらい速くとかは言えないが、おそらくデジタル出版への段階的で継続的な移行を予測すべきだろう。
頭に置いておいて欲しいのは、今は漫画売上の90%が紙媒体で、印刷版はおそらく中期の売上の大部分を占め続けるだろうということだ。

 (ダラス) ベンが答えてるから、僕のコメントは彼が言ったことの繰り返しになるかも。
漫画市場は今最高に良い状態だ。数年前よりも良い。ボーダーズ(米国書店チェーン)が2010年に倒産したように、2007年の経済不況は僕らを強く打ちのめした。だけど2013年は業界が久しぶりに成長した最初の年だ。おまけにそれはすごい成長だ!今年の全体的な漫画の売上は10~20%アップし、この業界のそれぞれの会社が素晴らしい売上を見せた。僕はアメリカで印刷発行された本の売上を追跡するBookscanと呼ばれるツールを使って売上高を分析し、その結果、昨年でYen Pressは20~30%、セブンシーズ・エンターテイメントはほぼ100%の売上アップをしていたことがわかった!そしてKodanshaは2012年を大きく上回っていた……2011年よりも大幅にだ!
だから、うん。物事は上手く進んでいるよ。市場は拡大しているし、僕らは「進撃の巨人」がその拡大を手助けしているいくつもの証拠を目撃している。それはすごく素晴らしいことだよ。 

Q. ハイ!「ヴィンランド・サガ」の1巻を買ったばっかりだ。あの本は素晴らしいよ。レタリングも翻訳もすごくいい。全巻揃えるのが待ちきれないよ。
僕の質問は、「ヴィンランド・サガ」みたいな一部のシリーズでは描き文字(手書きの擬音語・擬態語など)を完全に置き換えてしまっている(つまり日本語の描き文字を消して、その部分の絵を書き直して、英語で文字を描いてる。)のに、「セーラームーン」みたいな他のシリーズではそうしていない(日本語の描き文字の横に英語を足しているだけ。)のはなぜかってこと。どういう風に扱いを決めているの?


A.  (ベン) 僕らはシリーズを英語の描き文字のみにするか、日本語の描き文字を残して英語の翻訳を入れるかをそれぞれのタイトルベースで決めている。漫画のスタイルやジャンル、アーティストの姿勢によるんだ。「さんかれあ」や「No.6」では、日本語の描き文字を英語に置き換えた。でも「ヴィンランド・サガ」では何も置き換えていない。講談社は日本語の描き文字が入っていない漫画原稿を送ってきたんだ。
君が「ヴィンランド・サガ」を楽しんでくれて本当にうれしいよ!



Q. 諫山 創にAMAやるように頼んでもらえる?:)

A. (ベン) 以前漫画家によるAMAを検討していたんだけど、まだ実現してない。確かにそれはいいアイディアだと思うよ!

(ダラス&ベン)
完了!
君たちみんなと話せてすごく楽しかった。素晴らしい質問をありがとう!
質問し忘れたことがあったら、TwitterTumblerで聞いてくれ。
漫画を楽しんで!
 



044932日本人以上に日本の漫画を読んでそうな人たちがたくさんいるスレでした。



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